自家焙煎をキャンプ場で行う方法

テントとアウトドア用品

茶色い豆ではなく緑の原石を持ち込む贅沢

普段、ロースタリーで焙煎士が焼いた完璧な豆を買うことは、間違いのない美味しさを手に入れる最短ルートです。
しかし、時間という資源が無限にあるキャンプ場においては、あえてその正解を手放し、自らの手で味を創り出す自家焙煎こそが、最高のエンターテインメントとなります。

ツーリングキャンプのパッキングにおいて、焙煎前の生豆(なままめ)は非常に優秀な素材です。
焼いた豆のように酸化を気にする必要がなく、常温で長期間保存できるため、鮮度管理に神経を尖らせる必要がありません。

何より、緑白色をした硬い種子が、熱によって褐色に変わり、芳醇な香りを放つ物体へと変化する。
この劇的な化学反応を目の前で目撃できるのは、生豆を持ち込んだ者だけの特権です。

用意するのは、銀杏煎りや専用の手網(てあみ)と、軍手、そして生豆のみ。
道具はシンプルですが、そこには豆の種類や産地選びと同じくらい、深い探求の世界が広がっています。

エチオピアのナチュラル製法か、マンデリンの力強いボディか。
今夜の焚き火の前でどの豆を育てるか、出発前から既に楽しみは始まっているのです。

五感を研ぎ澄ます手網焙煎の儀式

キャンプ場に到着し、陽が落ちて周囲が静寂に包まれた頃、焙煎の儀式を始めます。

熱源には、安定した火力のシングルバーナーを使うのがセオリーですが、野性味を求めるなら、落ち着いた焚き火の熾火(おきび)を使うのも一興です。
遠赤外線の効果で、豆の芯までじっくりと熱を通すことができます。

手網に生豆を入れ、火の上にかざして、シャカシャカと一定のリズムで振り続けます。
最初の数分は、豆の水分を抜く水抜きの工程。
地味な作業ですが、ここでしっかりと水分を飛ばさないと、渋みのある味になってしまいます。

やがて、網の中から薄皮(チャフ)が舞い上がり、焚き火の炎に触れてキラキラと火の粉のように輝きます。
その幻想的な光景に見とれていると、突然パチッ、パチッという乾いた音が響き渡ります。
1ハゼの合図です。

この瞬間から、周囲には甘く香ばしい香りが漂い始めます。
豆は色づき、熱化学反応によって複雑な風味成分が生成されていきます。

さらに加熱を続けると、今度はピチピチという細かく高い音、2ハゼが聞こえてきます。
ここからは秒単位の勝負。
深煎りのコクを狙うか、酸味を残した中煎りで止めるか。

自分の理想とする味のイメージと、目の前の豆の色、音、香りを頼りに、火から下ろすベストなタイミングを見極める。
それはまさに、火と豆と対話する真剣勝負の時間です。

煙の香りと達成感がブレンドされた世界で唯一の味

煎り上がった豆は、すぐさまザルに移し、夜風に当てて急冷します。
余熱で焙煎が進んでしまうのを防ぐためです。

冷却を終えた豆は、本来なら数日置いてガスを抜くのが定石とされていますが、キャンプ場ではそんなルールは無粋というもの。
「煎りたて、挽きたて、淹れたて」の3たてを楽しむことこそ、野外焙煎の醍醐味です。

ミルに豆を投入し、ハンドルを回すと、カリカリという感触と共に、いつもより一層力強い香りが溢れ出します。
焚き火の煙のスモーキーな香りが、微かに豆に移っているかもしれません。
しかし、それさえもアウトドアならではのフレーバーです。

丁寧にドリップして口に含んだ瞬間、未熟な焙煎によるムラや、少し焦げたような苦味を感じることもあるでしょう。
けれど、自分で汗をかき、煙に巻かれながら焼き上げた一杯は、有名店の豆よりも深く、愛おしい味がします。

不完全であることの美しさと、自らの手で素材を料理したという達成感。
夜空の下、揺れる炎を眺めながら味わうこのコーヒーは、効率化された日常では決して出会えない、野性と知性が融合した究極の質を提供してくれます。

Related Posts

© 2025–2026 NO COFFEE, NO RIDE All rights reserved. | サイトマップ